言葉探し

短文小説
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僕は言葉を探していた。

僕はあったことを受け入れらないことがある。
なんというか自分が何を考えてるのかが自分でも見えないとき、思考は理解を超える。言葉に出来ないと何もしゃべれなくて困る。友達は言葉が出なくてどもった僕を笑っていたけど。
きっとこういう時は言葉を見つけることが必要なんだ。言葉を見つけて自分自身を理解したとき、何が起きていて何が許せなかったのかどうやって前に進むのかわかる。そうなればいつもの僕だ。

僕は悩んだ結果、日の入りを見ることにした。
本当は日の出を見ようと思ったけど起きるのも徹夜するのも厳しいからやめた。
きっと日の光は強いからこの洪水みたいな心を押し流して解決してくれるだろう。
大きいは正義だ。困った時は宇宙のことを考えればいい。すべて矮小化してくれる。でも今は心が洪水しているから宇宙を外から取り入れなきゃいけない。
こういう時は外部から強制してやらないといけないのだ。だから日の出。天の川が見えるくらい街が暗かったら星を見ていたかもしれないな。今は冬だから天の川は見れないけれど。

街に出て歩き始める。下を向いて歩き始める。
いろんなものが目に入ってくるがとりとめのないことが思い浮かんでは流されていく。なんだか、なんだろうなうまく言葉に出来ないかも。
そんな風に歩いていたら、すぐに川についた。大きな川。
今日は川沿いの少し高い場所にある神社で夕焼けを見る。ここからはまっすぐ歩いていれば目的地に着く。川沿いを歩くのはいい、迷わないからね。
迷わないと少し思考に余裕が出てくる。何が許せないんだろうか、許せないんだろうか、何故どんな仮説も納得できないんだろう?なにが…
でも一瞬で考えるのをやめる。考えなくたって頭の中をぐるぐるといろんなものが飛び回っている。そこでそれを押し流すために外まで出てきたことを思い出したから。
聞いている音楽に身を任せる。言ってなかったけれど音楽を聴きながら歩いているのだ。とにかくいろんな力を与えてみるべきだと思うから。それにこれは感情の分野だと思うからね、事実より物語が必要なんだと思う。

途中こっちに歩いていく方が正しいと思った全く知らない横道に入っていったけど丁度いいくらいの時間に神社についた。自分のセンスに脱帽だ。道を逸れる才能があるのかもしれない。でもまあ奇跡的な出会いとかはなかったから逸れなくてもよかったのかも。
道中梅の花が綺麗に咲いているのを見たのと、散歩先で知らない図書館に入ったことを思い出した。それが成果だろうか。今度、遠出して知らない図書館に行こうと思う。面白そうだから。

僕は10円玉を賽銭箱に入れ、言葉が見つかりますようにと祈ってから開けた場所で太陽を眺める。
ここはどうぞ夕焼けを見てくださいと言わんばかりのスペースがある。展望台というほど高くないし、何もないので何とも言えないけど。ベンチくらいはあっても良かったんじゃないかなぁ。それでも三人くらい同じく見に来たであろう人たちがいた。
日の入りが始まる。最初は眩しくて見ていられなかったけど沈むにつれて見れるようになってくる。白からオレンジへ。それにつれて街の色が変わっていく。
夕焼けって支配的だなとふと思った。街が一色になっている。色を奪われたセピア色の風景。夕焼けを前にした僕も色を奪われているんだろう。
持ってた缶コーヒーの缶を捨てに行った一瞬でもう日の入りは終わりかけていた。
思ったより沈む速度って早かったんだな。何とも言えない呆気なさを感じながら、空の綺麗なグラデーションを見ていた。
空は綺麗だった。今日は快晴で何もノイズがなかった。夕焼けで綺麗になっている雲も好きだけど、ただただ圧倒的な色の空も好きだった。それはなんだか大きな力だった。求めていたものだったかもしれない。
遠く遠くの山は空のような色で、そのシルエットは夕焼けのオレンジによって浮き出されていた。
僕は金網に絵の具をつけて歯ブラシで霧状にして紙に振りかける技法を思い出していた。なんだかそういう風景だった。
この色の塗りつぶす力は圧倒的できっと均一な色の塗り方でしか表現できないんじゃないかなって。
そしてこの山々の境界線の感じはその技法に似ていた。マスキングテープみたいに絵の具がかからない部分を作ることで絵を描く方法に。
やってみようかな。普段絵なんか描かないけど。この場合は作るかな。
そう思うとその境界線はびりびりに破った紙のようだった。ちぎった紙に地平線と名付けたような現代アートがあるかもしれない。

ぼんやりとながめていたら僕は一人になっていたことに気づいた。なんだか悲しかった。
確かに日は沈み切ったけど、まだ空はこんなにも綺麗なのに。いつの間にか見ているのは僕だけになっている。
そうだな。なんだか夕焼けみたいだ。それはそれは凄い光景で。でもありふれていて、見に行けばいつでも見れて、そして呆気ない。見てる人も少ないし、その人たちも見ていたらいつの間にかいなくなっている。気づいたら見ているのは俺一人だけ。皆興味ないみたいで。そうか夕焼けみたいだったのかな。
そうか。
夕焼けを見て泣いていていいんだ。でも見るのをやめて笑っていてもいいんだ。終わったりもするし、その後星を眺めてみてもいいんだ。また夕焼けを見に来てもいいし、来なくてもいい。きっとそうだ。
気づいたらまだオレンジ色の残る空に星が二つ出ている。金星と木星だっただろうか。
それとさっきまでいなかった空を見に来たであろう人に気づいた。入れ代わり立ち代わり空を見ていった。
僕もまたここを離れる。

僕はなんだか泣きそうだった。

言葉を見つけた。折り合いをつけた。

空にはオリオン座が見えていた。明かりが付き始め、街は輝き始めていた。
僕は夜をきわめてはれやかに歩いた。

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